No35 【TIFF5日目レポート3】風刺のきいたダークコメディ『鈴木さん』

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文=浦田行進曲 妄想パンフイラスト=ロッカ

「美しすぎる国」のモデル自治体に指定された、主人公ヨシコ(いとうあさこ)の住むまちでは、45歳までに家庭を持たなければ市民権を失う。家庭を持つことは国民の義務であり、万が一その義務を果たせない者は軍への入隊という方法で御国のために尽くさなければならない。
独身のヨシコは日々、間もなく消される存在として扱われることに抵抗しながらグループホーム「ユートピア」で老人たちの世話をしながら暮らしている。
そんなある日、ヨシコの前に鈴木を名乗る謎のホームレス(佃典彦)が現れた。また同じ頃、まちに工作員が紛れ込んだという緊急速報が流れて──。

美しい国の美しい国民は生存本能に基づき美しい家庭を持つべきだ。
貼り付けたような笑顔で“正論”を言う側の人間は、一貫して不気味で異常な存在として描かれている。果たして本作はディストピアSFなのだろうか? 住民資格を持たぬ敵国のスパイが井戸や食べ物に毒を入れているというデマが拡散され、国家の美の基準からはみ出た人間は容赦なく吊るし上げられる。選択的夫婦別姓や法的な同性婚が認められていない国の人々が持つ価値観を誇張して見せているだけだということには容易に気づくだろう。

本作の撮影は2年前に行われたそうだ。#MeToo運動がさして盛り上がることもないまま現在に至る我が国において、劇中古びて感じられるような描写は残念ながらなかった。

上映前の舞台挨拶にて、自身の演じた主人公について聞かれたいとうあさこの「45歳独身という役柄のため、特に役作りは不要だった」というコメントに対して、場内では笑いが起きた。鑑賞後恐らく皆が、『鈴木さん』の余韻に浸りつつこれまでの自分が映画の中の、どの立場に身を置いていたのか考えることになったはずだ。

妄想パンフ

決められた形を美の手本として目指すことを政府から強要される世界に生きる主人公たちに寄り添う気持ちを込め、変形パンフとしたい。舞台である「ユートピア」元ラブホテルのグループホームで印象的だった貝殻ベッドを模したデザインだ。

作品情報

『鈴木さん』(Mr.Suzuki-A Man In God’s Country-)
予告編はこちらから
監督:佐々木 想
キャスト:いとうあさこ、佃 典彦、大方斐紗子
90分/カラー/日本語・英語字幕/2020年/日本/長編1作目の監督作品

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