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【TIFF1日目レポート2】2020年に観たいボクシング映画『アンダードッグ(Underdog)』

文=浦田行進曲

昨日10月31日(土)より、第33回東京国際映画祭が開幕した。本記事ではそのオープニング作品『アンダードッグ』について紹介する。


©2020「アンダードッグ」製作委員会

多数の映画賞を席巻した2014年公開の映画『百円の恋』チームが再びタッグを組み、同じボクシングを題材に製作した『アンダードッグ』。主人公の末永晃(森山未來)は、デリヘル嬢送迎の仕事で食いつなぎつつ、かませ犬(=アンダードッグ)の立ち位置でくすぶりながらボクシングを続けている男だ。そんな晃の前に2人のボクサー、宮木瞬(勝地涼)と大村龍太(北村匠海)が現れる。バラエティ番組の企画としてボクシングに関わるふざけた態度の瞬は芸人としてもボクサーとしても中途半端。また晃のことを知っていると歩み寄ってくる謎の青年龍太には過去に秘密があった。
それぞれの人生の、どん底から這い上がることはできるのか。前・後編で描いた作品だ。

運動音痴の私にはスポ根が理解不能で、こうした題材の映画を観ては痛そう、つらそう、辞めちゃえば? と身も蓋もない感想がよぎることがままあるのだが、本作では彼らの“闘う理由”が筋金入りの文系人間にも伝わるように作られている。
例えば登場時から場違いなおちゃらけを続ける宮木瞬というキャラクターが鏡越しに、映画を観ている我々だけに見せたある表情に、同じ顔をしている自分自身の姿を記憶の保管庫から取り出してしまう人も少なくないだろう。
前編において、3人の姿はしばしば車のフロントガラス、建物の四角い窓の外、テレビ画面等、枠越しにとらえられる。そして晃の乗っている車はほとんどの場面で停止している。彼は一体いつ走り出すのか? 見る、見られるの関係性に注目し、彼らの試合を誰が、どこで見ているかを追って観るのも面白い。

その他、脇を固める人物1人1人にも人生のドラマがあること、絡み合う人間関係の模様を前・後編合計276分使ってたっぷりと見せてくれる。特に晃の働くデリヘルの店長、木田五朗(二ノ宮隆太郎)の存在感は素晴らしく、笑い泣きさせられた。
一番の見所はやはり圧巻の試合シーンだ。日本がコロナ禍に突入する直前というタイミングでの撮影だったため、後楽園ホールを満員にする数のエキストラを投入することができたという。会場の大歓声はこの状況下にてそれだけで響くものがある。上映開始前に行われたクロストークにて、龍太役を演じる北村匠海はその撮影前日、実際のボクサー同様の食生活とトレーニングを行い挑んだことを明かしていた。肉体改造含めた俳優陣の凄みのある演技に加え、『百円の恋』に続き本作でも藤原カクセイが特殊メイクデザインを担当しており、血と汗の飛び交う白熱の試合に臨場感を高めている。
昨今何かとふさぎ込んでしまう心に、熱いものを呼び起こさせてくれる映画だ。

妄想パンフ

公開が決まっているため妄想パンフは省略。劇場で入手しよう。

作品情報

TOKYOプレミア2020オープニング作品
『アンダードッグ』(Underdog)
監督:武 正晴
キャスト:森山未來、北村匠海、勝地 涼
作品公式サイトはこちらから

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