映画パンフは宇宙だ!

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映画の撮影現場に初めて行って照明さんに感動した話

文=ウチダ

映画のデザインがやりたいやりたいと言い続けて、ついに念願のチャンスが来た。
きっかけは、前に勤めていた映像制作会社の社長の知り合いが、自分のタレントを主役に映画の企画を立て、奇跡的にも製作・配給が決まり、その宣伝物のデザイン依頼のお話が来たのだった。
ついでに撮影現場に出向いて、メイキングショットも撮ってこいと。
現場で演者やスタッフのオフショットを撮るなんて、プロのカメラマンでもない私がやっていいのか?と社長に聞いたら、「低予算の映画なのでなんでもアリだ。むしろ人手が足りない」とのこと。
早朝、もう一人の手伝いの男性と一緒に、郊外の山へハイエースで向かった。

初対面の男性と初めての撮影現場に向かう、このテキトーさ。
社長らしい。いつも突然なのだ。
でもついに映画のデザインができる、わーい!と思いつつ、現場に向かった。

しかし、連絡の行き違いがあり、違う場所に行ってしまい、山の中をぐるぐる回り、結果遅刻。
もう準備が始まっていたので、早速荷物を持ったり、雑用を必死にこなす。
現場は大勢の人がせわしく動き回っていて緊張感があった。
遅刻したせいもあり、誰が誰だか分からない。
向こうも我々二人の名前をいちいち覚えていられない。
とにかく率先して荷物運びをやった。
あとで「デザイナーです」と名乗ったら驚かれた。
(そうか、普通は現場に来ないもんなんだな…。)
余談であるが、別件の広告の撮影現場に行ったときも、デザイナーではなくADだと思われてて、驚かれたことがある。
「デザイナー」っていう雰囲気がしないのであろう。オーラが欲しい。

そして撮影がいよいよ始まる。
私は素人なので最初フラッシュをたいてしまい、撮影中断。連れに厳重に注意される。
無知が痛すぎる。

撮影現場では、社長経由で顔なじみのタレントが主演として、監督と熱心に話していた。
(あの子がこんなに立派に…)という母親の気持ちになった。
普段、社長はこの子のわがままに振り回されていたので、感慨深かった。
私としても、この子のおかげで映画デザインのチャンスがもらえたのだから一生頭が上がらない。
(ちゃんと演技できるのかな…)
女優は初挑戦らしい。ほんとに母親の気持ちになってしまう。
実際の演技を見たら、意外にもちゃんとしてた。感動すらしてしまった。
人は成長する…。
私は今一度、カメラのフラッシュボタンのオフを確かめた。

別の離れた場所では、物語のキーとなる謎の美少年役の男の子が、
これから撮る自身の初登場シーンについて、スタッフから演技指導を受けていた。
「●●(役者名を呼び捨て)。こうやって登場すると、より不気味じゃない?」
まだキャリアの浅い俳優らしく、スタッフが話す言葉と身振り手振りを真剣に聞いていた。
何度も何度も道の脇の草むらからズザザッ!と滑り下りてくる初登場シーンをリハーサルしていた。
途中で転倒してしまっても、すぐに立ち直って何度も練習している。
こうでもない、ああでもないと試行錯誤する二人を見て、
(…おぉ…これが…役者魂…)と感じずにはいられなかった。

現場のスタッフは男女比が半々だった。
これは意外だった。
なんとなく撮影現場って男性社会だと思っていたのだ。
助監督が女性でハキハキとした声で現場を仕切っていた。
小道具のアシスタントらしき女性が男性(たぶん師匠)にめちゃくちゃ怒鳴られながら、走り回っていた。
男女平等でよいなと思った。映画作りが好きな男女が集まってるんだな…。

撮影中、太陽が雲に隠れてしまい、筋肉むきむきの男性の照明さんが(照明器具が重いから必然的に筋肉むきむきになる)、なにやら半透明のカードを片目に当て、「……あー!もうちょっとかなぁ…?」と太陽を見上げながらブツブツ言いだした。
どうやら照明さんは、あとどれくらいで太陽が出てくるのか、あるいは隠れるのかを目測していたのである。
いわゆる「太陽待ち」であった。
監督たちはその言葉を聞いて、今後の撮影スケジュールの予定を話し合いだした。
こ、これが映画…!と私はすっかり感動した。
いつかのテレビで見たシーンそのものではないか。

山の夜は闇が濃い。
やっと夕食の時間になった。
演者たちはスタッキングチェアでお弁当。
我々スタッフは、その辺の道に座って、暗い中、相手の顔も見えずにお弁当を食べ、会話した。夏だったので虫もすごかった。
若い女性スタッフさんも普通に地べたに座ってご飯を食べている。私はこの点にも感動した。女性だからといって、容赦ないのである。

こうして、緊張と感動しっぱなしで精神的にも肉体的にも疲れた長い一日を終えた。
デザイナーは現場の方と比べると、気楽だな…。良いデザインをしないとな!と改めて気持ちが引き締まったのであった。
適当な社長のおかげで、得難い経験ができたことに感謝である。
(映画は興行的には惨憺たる結果に終わったらしい…。)

おわり

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