No9 「知る」から始めよう~アメリカを揺るがすBlack Lives Matterとは

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文=小島ともみ

二度と抱きたくない罪悪感のこと

 今もはっきり覚えている。あれは小学2年生のときのことだ。
 当時は土曜日もまだ学校がお昼まであった。地方の小さな町で、どの子も今のように塾や習い事に追われることはなく、帰り道に遊ぶ約束をし、めいめい家で昼食を済ませ、日が暮れるまで校庭や公園で遊んだものだった。その土曜日は、約束の時間を過ぎても待ち合わせの場に姿をみせない友人Aを迎えにいこうということになったのだった。Aの住むマンションにつくと、私たちは、せーの、で4階の彼女の部屋めがけて「Aちゃーん」と呼びかけた。彼女はすぐ窓辺に姿をあらわし、「ちょっと待って」と身振りをしてよこした。私たちは、そのころ流行っていたゴム段遊びをして待つことにした。歌いながら遊んでいると、突然、頭上から低い声が降ってきた。“Hello”。見上げると、2階の窓からタンクトップ姿で筋肉隆々、首に太い金のネックレスをした黒人男性が私たちに向かってにこやかに手を振っている。
 言い訳になるけれど、繰り返す。そこは地方の小さな町だった。日常、いかなる種類の外国人を見かけることもなかった。知らない人が突然、声をかけてくることもなかった。その男性は私が、そして友人たちにとっても、初めて身近に接した外国人であり、初めて間近で見る黒人だった。
 一瞬、空気が凍りついた。誰かが「きゃあ」と叫ぶと、みんなつられるように悲鳴を上げ、一目散にわっと駆けだした。待ち合わせの場所まで戻った私たちは、「びっくりしたぁ」とひとしきり騒いだあと、Aを置き去りにしてしまった気になって、おそるおそるマンションまで戻った。2階の窓は閉ざされており、ホッとしたのと同時になんとも言えない気持ちになった。しばらくするとAが出てきて、私たちはいつもと同じように遊び、豆腐屋さんのラッパの音を合図に帰った。
 いつだったかは覚えていないが、私はあるとき急にこの出来事を思い出した。たぶんあの男性は、天気のよい土曜の午後、楽しそうに遊ぶ少女たちの声を聞き、ほほえましく思って、ちょっと声をかけてみようと思っただけだったのだろう。まさか悲鳴を上げて逃げ出すだなんて、想像もしなかったに違いない。彼がどんな気持ちになったかを考えると、今も胸が痛む。
 人は未知のものに対して恐れを抱く生き物だ。しかし恐怖は忌避をよび、それは気づかぬうちに差別につながってしまう可能性だってある。
 5月に刊行した映画のデジタル副読本PATUFan×ZineVol.01のテーマとしてジョーダン・ピール監督の『Us[アス]』を選んだのは、「日本人には理解が難しい黒人差別の問題を扱った作品だけれども、“私たちのこと”として観てみよう」が発端だった。今、アメリカで起きているBlack Lives Matterの運動も、日本人の多くにとって生活に密接な関わりはないことかもしれない。だからといって、知らなくていいのだろうか。もちろん知らなくたっていいだろう。たぶん生きていける。

 ただ、ジョーダン・ピール監督やスパイク・リー監督、バリー・ジェンキンス監督はじめ黒人の問題を描いた監督たちの作品をエンタテイメントとして楽しみ、心を動かされたことがあるのだとしたら、彼らが描こうとしているおおもとのことについて、ほんの少しでも考えてみてもいいのではないかと思う。
 異国の文化や歴史を完全に理解することは難しい。まして複雑な事情が複合的に絡み合って今まさに進んでいることに対しては。でも、きっとこれは千載一遇のチャンスだ。先に挙げた監督たち以外にも、多くのセレブリティたちが運動を支持する声明を出し、寄附もし、情報を流し続けている。その大きなうねりの一端にでも触れ、覗き込んでみよう。未知という恐怖にはわりと簡単に打ち勝てる。その勝利は、目に見えて具体的な成果物はもたらさないかもしれないが、私たちの意識に何かしらの種をまくだろう。1粒でも多くの種が芽吹き、花を咲かせ、実をつけたとき、そこにはきっと今までとは違った景色が広がっているに違いない。

ジョージ・フロイドさんの死に対し、世界の映画人たちはどう動いたか

 ロンドンでの平和的デモの場にあらわれた俳優のジョン・ボイエガのスピーチ全訳と、その中の一言「俳優を続けられるかわからない」に対して支持を表明した、『スターウォーズ』の共演者マーク・ハミルをはじめとする映画人たちの反応はTHE RIVERのサイトで紹介されている。
https://theriver.jp/john-boyega-blm-speech/

 今回の事件で死亡したジョージ・フロイドさんのみならず、過去に同じような事件で命を落とした黒人や、その遺族たちへの寄附、また、運動に参加する人たちへの寄附(デモに参加し逮捕された際の保釈金用としてなど)を募るサイトがさまざま立ち上がっており、多くの著名人たちが協力し、拡散している。その一例を紹介する。なお、寄附はアメリカ以外の国からも可能だ。

◆Ways You Can Help
https://blacklivesmatters.carrd.co/
NICOと名乗る17歳(実際は不明)が立ち上げたサイト。gofundmeで行われている寄附の呼びかけや、お金やデモ参加によらない寄附の方法、観ることで“寄附”につながるYouTubeのリンクなどを紹介。各種言語に翻訳され、日本語版サイトもある(https://blmjapan.carrd.co/)。

◆Black Lives Matter
https://blacklivesmatter.com/
2012年に起きたトレイボン・マーティン射殺事件(フロリダ州において当時17歳だったアフリカン・アメリカンの高校生トレイボン・マーティンを、地元の自警団でヒスパニック系の28歳青年ジョージ・ジマーマンが射殺した事件。ジマーマンには、フロリダ州の“正当防衛法”に照らし、無罪判決が下る)をきっかけに、地域に構造的に存在する黒人への暴力や不公平をなくすために活動する団体。各種募金のほかオリジナルグッズの販売も行っている。

◆The Loveland Foundation
https://thelovelandfoundation.org/
在野研究者で文筆家のレイチェル・カーグルが立ち上げた非営利団体。主に黒人女性や少女たちに経済的な支援を実施。フェミニズムと人種の歴史を学べる教材なども提供している。

◆Minnesota Freedom Fund
https://minnesotafreedomfund.org/
抗議運動に参加するなどして逮捕、拘留された低所得者の保釈金のための募金活動を行う、ミネソタ州に拠点を置く非営利団体。スティーブ・カレル、セス・ ローガン、ドン・チードルやサフディ兄弟が実際に寄附したことを示すスクリーンショットをTwitterなどのSNSに投稿した。

◆Campaign Zero
https://www.joincampaignzero.org/
暴力の削減などを含む10の項目で警察の改革を目指し2015年に設立された団体。今回の事件を受け、緊急で#8CANTWAITキャンペーンを提唱。ジョージ・フロイドさんの死因につながった首の押さえ込みなど、8つの具体的な禁止項目を掲げる。下記サイトでは、アメリカの各州でこの8つのポリシーがどの程度達成されているかを確認することができる。
https://8cantwait.org/

※事件のあったミネソタ州ミネアポリス市の例

英紙ガーディアンのサイトでは、今、スパイク・リー監督への公開質問を受け付けている。下記サイトのコメント欄に書き込んだ質問にスパイク・リー監督が答えるというもの。締め切りは現地時間の6月8日(月)【日本時間で6月9日(火)午前1時】。6月6日午前10時現在で200近いコメントが寄せられている。
https://www.theguardian.com/film/2020/jun/05/spike-lee-send-us-your-questions-for-the-director-of-do-the-right-thing

今、観ておきたい映画・ドラマ

アメリカにおける人種差別とその抗議活動について、これまで数多くの映画やドラマがつくられてきた。日本でも、今回の事件のあと「理解の手助けとして」と多くのサイトが関係する作品を紹介している。

◆『映画から学ぶ「#Black Lives Matter」運動の重要性 “いま”こそ観るべき映画5選』(Cinema Cafe)
・
https://www.cinemacafe.net/article/2020/06/05/67422.html

◆『仏サイトが選ぶ、黒人に対する警察官による暴力を描いた映画』(映画.com)
https://eiga.com/news/20200602/15/

下記作品も付け加えておきたい。

◆ストロング・アイランド(Strong Island)
兄が殺され、犯人は無罪放免となった。その事件の詳細と、背景にある人種差別問題に実弟のヤンス・フォード監督が迫ったアカデミー賞ノミネートのドキュメンタリー映画。
Netflixで視聴可能】

◆13th-憲法修正第13条-(13th)
『グローリー/明日への行進(SELMA)』のエイヴァ・デュヴァーネイ監督によるドキュメンタリー映画。大量投獄に焦点を当て、廃止されたはずの奴隷制度が現在も形を変えて存在していると指摘。タイトルの“13th”は合衆国憲法修正第13条(奴隷制廃止条項)を意味する。
Netflixで視聴可能】

◆運命の7秒(SEVEN SECONDS)
ジャージーシティの麻薬捜査班に属する白人刑事が、15歳の黒人少年を車でひいてしまう。現場に駆けつけた上司は隠ぺいを指示。実は少年はまだ生きていたが、病院で亡くなる。隠された真実を求めて闘う家族を描いた10時間のドラマ。
Netflixで視聴可能】

◆パージ:エクスペリメント(The First Purge)
犯罪行為を減らすために殺人を含むすべての犯罪が合法化される夜「パージ」を描いたシリーズの第4作目。白人至上主義の暴力を多分に含む内容、階級主義へのメタファーがBLM運動を思い起こさせる。
Amazonプライムで視聴可能】

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