映画パンフは宇宙だ!

MAGAZINE

これがハリウッド交渉術?~アリ本、脚本採録までの道!-前編-

脚本の採録は偶然の産物

 
アリ・アスター短編解説読本「"I HOPE THAT PEOPLE WILL FEEL UNSETTLED.”」企画担当の小島です。
はじめまして。アリ・アスター監督が好き!『ヘレディタリー』と『ミッドサマー』だけでは計り知れないその才能をいろんな人に知ってもらいたい!という思いで走り出した本企画。
 
「映画パンフは宇宙だ」初の出版物として発売に至るまでには、どえらい紆余曲折がありました。
 
きょうはその一端をご紹介します!
 
「劇中で流れるカセットデッキからの音声の内容までわかる!」とご好評をいただいている日本語/英語完全網羅の簡易脚本ですが、当初は掲載の予定はありませんでした。
すべての作品の台詞を起こし、簡単な訳をつけたのは、あくまで制作をスムーズに進めるための一過程にすぎなかったのです。
 
 
ところが...起こして訳してグッと身に染みた、その特異な世界。映像だけでも十分に楽めるじゃないの、と思ったみずからの浅はかさを呪いました。ファン失格。
登場人物たちの異常な行動の裏に込められた心情をあらわす台詞、そこがわかってこそ、たぐいまれなる監督のイマジネーションを存分に味わえることに気がついてしまったのでした。これをお伝えせずにはおけない...
 
よし、脚本を載せよう!
 
さまざまな能力を持った人たちが集う「映画パンフは宇宙だ」。
幸いにもメンバーには“字幕としての翻訳スキル”を学び持った方々もおられます。私のズタボロな仮訳をお渡してできあがったのが、採録された簡易版脚本です。字幕の世界は奥が深く、お読みになって「ちょっと違う」とお感じになる方もおられるかもしれない。解釈の仕方もさまざまでしょう。
そんなときにはネイティヴの耳も借りて起こした英語版脚本で、ぜひオリジナルの翻訳にチャレンジしてみてください。

誰でもコンタクトはできる。しかし...!

さて、ここから“脚本の採録”は本冊子の肝となるのと同時に、最大の難関として立ちはだかることとなりました。
 
誰にどう許可を取ればよいのか。どこに連絡すればいい?実はここはさほど大きな問題ではありません。
 
皆さんご存じの、映画とテレビ番組に関するあらゆる情報を網羅したデータベースIMDbには有料版があります。年会費で1万7,000円ほどを払うと、たいていの連絡先は手に入るのです。
自分の情報を載せたページを作ることもできますから、映画絡みで世界とつながりたい人にはお薦めです。
 
アリ・アスター監督とそのマネジャーの連絡先を入手し、ドキドキしながら最初の連絡をしました。
ここで私は、最大のミスを犯してしまったことに後から気がつくことになるのです。

バカ丁寧があだとなる迷走の1カ月

――失礼があってはいけない。
日本人にありがちなメンタルで書いた私の最初のメールは、それはもう長ったらしいものでした。
 
まず「映画パンフは宇宙だ」という団体について説明し、冊子を作成する趣旨、お金儲けがしたいのではなく、監督の短編を一人でも多くの人にしっかり味わってもらいたいと熱弁を振るい、最後にようやく
「脚本を書き起こして日本語に訳しました。この両脚本を冊子に載せる許可をいただきたいのですが」
と書き添えるお粗末。それでも奇跡的にマネジャーからいただけたお返事は
「ありがとう。で、何の許可が欲しいの?」
というそっけない1行でした。苦難の1カ月の幕開けでした。
 
「簡潔に書こう」と決意して出した2通目。ポイントを絞り、箇条書きにしました。最後に
「完成のアカツキにはぜひ進呈させてほしい」と媚びて結び。
よし、これならわかりやすい。相手の時間もとらせない。ダメならダメでもいい。きっと具体的なお返事がいただけるに違いない。この考えが甘かった!
1週間後にようやく届いたお返事は、私の想像と理解力を超えていました。
 
“Thank You! That sounds great!!”
 
これって最後の一文(進呈するのくだり)への返事じゃないの。私が欲しいのは、"Yes"か"No"なんだ!
 
「余計なことを書いてはいけない」とやっと学んだ私は、これ以上は短くできないというほど端的に
「脚本を載せていいかどうかだけ答えてくれないか」
とだけ書いて送りました。すると、途端に黙るマネジャー。なぜ返事をくれないのだろう。直接的に書きすぎて失礼に当たったのでしょうか。
 
最初にコンタクトをとってから2週間がたっていました。
この時点で、決めていた冊子の発売日 “『ミッドサマー』公開前”かつ“私の渡航前”には間に合わないことが判明し、大いにあせっていました。
 
さらに1週間待てども、返事はなし。
すでに台割はしていただいていましたから、脚本を採録できないとなれば、大幅にページ数を減らすか、別のコンテンツを用意しなければならない。どん詰まりです。

権利は権利、“自費出版”とのせめぎ合いモラル

すがる思いで、知財に詳しい弁護士の方数名に「許可を得られなくともなんとか載せられる方法(抜け道)はないか」などと非常識なお伺いを立ててみました。
 
いずれも「無理ですね」、「載せたいなら許可得てください」、「いわゆる自費出版だから(許されるだろう)と同様のことをしている人は多いです。訴えられるかもしれない...といったリスクを覚悟でやりたいのならどうぞ」と至極まっとうなお答えが返ってきました。当然です。
 
「脚本を載せたいのなら許可は必然」と覚悟を決めたはいいものの、次にどんな手を打てばよいか、相変わらずマネジャーから返事はありません。
 
万策尽きた頭に浮かんだのは、NYに住む友人の映画プロデューサーでした。彼女に相談してみよう。
タイミング良く、彼女は仕事の打ち合わせのためロスに来ていました。ここから事態は大きく動きます!
(後編へ続く)
※プロデューサー友人と待ち合わせたのは、ロンドンのソーホーから始まったアートやメディア系の人々のための会員制プライベートクラブ

ここウエストハリウッドに集まるのは、主に映画業界にかかわるプロデューサー、弁護士さんたちです。電話の使用は禁止。もちろん写真も御法度です。

急ぎ次のアポイントメントに向かう友人とバレットパーキングの受付前で1枚。コースターはお土産に持ち帰りました。

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