文=平嶋洋一
まえがき
「映画を…思い出の遺物として限定するのではなく、…「いま」生きている新作としてよみがえらせること」
映画評論家の山田宏一さんは1997年に刊行された『エジソン的回帰』のあとがきに、そう記しています。
1891年、エジソンは箱の中をひとりひとりがのぞき込んで映像を見る、「キネトスコープ」を発明。
ほとんどの街にキネトスコープ・パーラーが設置されるほど、それは人気を博しました。
しかし1895年、パリのグランカフェの地下「インドの間」での催しによって、そのブームは終わりを迎えます。
一日の仕事を終えて、工場から吐き出されてくる労働者たち。
画面の奥から手前に向かって走ってくる汽車。
いま目の前で展開しているような迫真の映像に、その場所に集った皆が仰天しました。
リュミエール兄弟によって発明された世界初の撮影と映写の機能を持つ複合映写機「シネマトグラフ」が、
以降の映画を見るかたちを決定づけたのです。
しかしビデオが普及することで過去の名作もいまの映画も、自宅のテレビモニタに映し出すことができるようになった。
家庭での鑑賞への転回。それを山田宏一さんは、キネトスコープによるのぞき窓からの映画体験になぞらえたのです。
つまり……
「「リュミエールの世紀を終えた今、映画はエジソンに回帰する。大勢で見るスクリーンから一人で見るビデオへ。時代の産物として上映された映画が、時代を超えた「映画」として甦る」
映画史にランダム・アクセスすることで、書き直される映画史……。
プロ中のプロといえるこの名映画評論家のことばから、いま私たちが学べることは、何だろう?
たとえばSkypeやZOOMで仲間とつながりながら、同じ映画を再生する
同時に進行する映画をのぞき(キネトスコープ)、距離は離れていてもそれを一緒に楽しむ(シネマトグラフ)。
「キネマトグラフ」と言えるようなかたちで、映画と仲間とつながっていきたい。
それがいまを生きる知恵なんだ――そう信じながら劇場に通い、自宅で配信を楽しむ日々をつづった雑記を、笑いながら読んでいただければ。
山田宏一著『エジソン的回帰』
4月13日
何せツインテールの左の尻尾は青、右の尻尾は赤。そしてぜんたいは金髪。
ピンクのビニール製のタンクトップに、千羽鶴みたいな極彩色の袖のジャケットを羽織ってる。
さらに青地に黒の縞のストライプのホットパンツ
――
すべてが装飾過多。
だから『ハーレイクインの華麗なる覚醒』のマーゴット・ロビーは、違和感なく成立していた、ように思うのです。
黒柳徹子のように。
でも『スキャンダル』の、FOXテレビで成り上がってやる!と 野心に燃える未来のキャスターを演じた彼女を見て、 その眼圧にひるんでしまったのでした。
松島トモ子や浅丘ルリ子の、
最近だと『バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』のラスト、
窓から空を見上げ、視線の先にバードマンの姿をとらえた(であろう)、エマ・ストーンの瞳のような。
……などと連想していると、
『さらば友よ』の冒頭、港町の酒場の記憶がよみがえってきました。 なみなみとウィスキーの注がれたグラスに何枚、コインを落とすことが出来るか。 チャールズ・ブロンソンは表面張力の限界を、賭けの対象にしていたのです。
マーゴット・ロビーもエマ・ストーンの大きな瞳にはそれと同じような こぼれてしまう「かも」というサスペンスがあって……いつも不安になってしまう!
『スキャンダル』
『さらば友よ』
4月1日
人と人の距離について、神経質にならざる得ないいま。
だからなのかふと、こんな話を思い出しました。
スペインのカナリア諸島に連なるラ・ゴメスは、険しい山と谷ばかりがつづく島。
その島の先住民たちは、深い谷を挟んで数キロメートル離れた尾根と尾根の間で、意思を伝え合えるというのです。
口笛による言語、グアンチェ語で。
このグアンチェ語は島の公用語のひとつとして、学校教育に採り入れられてもいる……。
遠く離れていても、いるからこそ、たしかに伝わることば・想いもあるのです。
3月31日
植木等の至言。
「ドリフターズはいかりや長介だけが、大人だった。
クレージーキャッツはハナ肇だけが、子どもだった」
3月31日
彼を愛したすべての女性たちに運ばれて、志村けんは出棺されたに違いない。
愛の映画作家、フランソワ・トリュフォーみたいに……
3月26日
何の気なしにAmazonプライムで見た『宇宙人東京に現わる』にびっくり。
原水爆実験に明け暮れる人類は、最悪の結末へと向かっている。
滅亡の危機から僕らを救うためパイラ人は、
はるか彼方からやってきた。
「地球に猛スピードで迫っている〝新天体 R″の衝突を回避するためには、
全世界に存在する原水爆で迎え撃つしかない」
そう、宇宙人たちは伝えるのです。
ひとつ目でヒトデ型というパイラ人の斬新なデザインを担当したのは、あの岡本太郎。
「スーツ・アクターが黒いシーツをかぶっただけじゃん」
いやいや、これが芸術なのだ!
都市から田舎へ疎開する子どもたち、すし詰めの列車、
防災頭巾にモンペ姿で地下壕に避難する人々。
1956年公開のこの映画には戦争という、当時はまだ近い過去の記憶が、はっきり重ねられています。
それだけではなく避難勧告によって無人になった、銀座・新宿など東京の繁華街。
新天体の接近によって気温が急上昇、以上に高まる海水面、決壊する堤防、街を洗う大津波……。
2020年に暮らす僕らにとってまだ生々しい惨事、
そして恐慌を来たしているいまを予告していたようにも思えてしまう。
さらに驚くべきはハッブル天体望遠鏡に映る新天体の姿が電子顕微鏡から覗いた新型コロナウィルスに、あまりに似ている!
だいぶ前に見た映画を偶然たぐり寄せて、空恐ろしいものを感じてしまいました。
『宇宙人東京に現わる』
3月22日
やっぱり「映画は大映」!
新スターとして売り出された第一作『高校生ブルース』からして関根恵子の扱いが、あまりに乱暴すぎる。
当時15才で高校一年生を演じているので年齢的には無理がないはずだけど、そもそもオバサン顔の恵子さん。
セーラー服がコスプレに見えてしまうのはのちの『新高校生ブルース』『おさな妻』『成熟』でも同じで、まあご愛嬌でしょう。
おぼこい彼女が体育館の倉庫で初体験して妊娠。
中絶を迫る相手の男への反発としてゴーゴー喫茶で踊りまくる。そういえば『おさな妻』でも夫の不倫に怒って、踊ってたな……。
そしてついに! あの倉庫に男を呼び出した恵子さんは、マットに横になって叫ぶ。
「私のお腹を力いっぱい踏んで!そうすればこのコは流産するから」
すると男は全力で、彼女の腹を踏みつけ出した!
マ、マジすか。
額に油汗を浮かべ苦痛に顔を歪めながら、トドメのひと言を投げつける恵子さん。
「このコを殺したのよ……私たちはこれから一生、殺人者として生きてゆくのよ!!」
翌朝、少女からひとりの女になった彼女はまっすぐ前を見て、登校するのでした。
デビュー作からこのひと、怖いよお母ちゃ〜〜ん!!
『高校生ブルース』
3月21日
麻疹、ペスト、マラリア、黄熱、眠り病、スペイン風邪、結核、ポリオからHIV、SARS……
狩猟採集時代から現在まで、人類と感染症の歴史をたどる本書。
「共生とは、理想的な適応ではなく、決して心地よいとはいえない妥協の産物なのかも知れない」
いまの状況への処方箋にすらなっていないけれど、一方でこんなシビアな認識も必要かも知れません……
3月21日
カツシン=座頭市がベトナムの戦場で視力を失った帰還兵=ルドガー・ハウアーに転生したら?
『ブラインド・フューリー』はそんな大胆な解釈に見えながらも、やっぱり原作の精神に忠実なのでした。
市がハンドルを握ってカーチェイスを見せる!トウモロコシ畑で大立ち回りする!
ルーレット賭博でバカ勝ちし、胴元のイカサマを暴く!
そしてすべてが騒動が解決すればひとり、また別の場所へと去ってゆく……
本家の見せ場をきっちり押さえながら、テンガロンハットに革ジャケット、ひげヅラの悪党がマシンガンを撃ちまくる!ガラスの破片が粉々になって飛び散る!
そんな80年代アメリカ映画のバカっぽいテイストも加味されているのが、実にほほえましい。
居合い斬りの師匠がベトコンの少年というのは、さすがに違和感を感じましたけれど。
『ブラインド・フューリー』
3月18日
Number最新号は、ノムさんこと野村克也追悼。
同じ元補者で名監督だった森祇晶の回想がすばらしいです。
相手の裏の裏を読み合う、高度な頭脳戦を懐かしむ。
情より知が先立つ友情の、最高のあり方だと思います。
古田がいないのはまあ、色々あったんでしょう。
田中将大の不在は、編集部の怠慢にしか思えないなあ。
新庄は……気分がノらなかったんだろうね
3月10日
俳優・長嶋茂雄の演技論
「セリフを読めばいい」
『ミスター・ジャイアンツ勝利の旗』より、
ミスター「夕飯は、テキにしてもらおうかな」
お手伝いさん「じゃあ、トンカツもつけちゃいましょうか?」
ミスター「テキ(敵)にカツ(勝つ)、か……う〜ん、こりゃ参ったな!」
『ミスタージャイアンツ勝利の旗』
3月3日
『はちどり』……これは
『冬の小鳥』以来、韓国製少女映画の傑作かも知れません。
中学2年・ウニと彼女の家族、友人、恋人、そして漢文塾の先生。
それらの関係がもつれ、ようやくほどけたかと思うとまた、混線する。
並行するように、ウニの耳の裏に見つかった「しこり」が、悪化してゆくのです。
人と人の間に正しい距離が空いている。
そこに流れる沈黙を、ノートの上を走る鉛筆の、風に振れる木々の音がうめて……
ウニを演じたパク・ジフの瞳に宿る意志、まっすぐな視線が本当にうつくしい。
『はちどり』
2月27日
『ゴースト・ドッグ』(99)以来のジム・ジャームッシュ快心作、と言いたい!
葉隠れを愛読するあの殺し屋フォレスト・ウィテカーが転生して、『デッド・ドント・ダイ』のティルダ・スウィントンは日本刀を振り回す!ゾンビの首が宙を舞う!!
そして……サメと泳ぐ、出産する、猛スピードで走る、などなど様々なバリエーションで描かれてきたゾンビの、新機軸?
生前のひとつの想いだけに、執着するゾンビ。
飛び降り自殺した霊は永遠に同じ場所で、飛び降りつづけるという話を聞いたことはあるけれど、ポージングをくり返す元ファッション・モデル、ラケットで素振りをしてるテニス選手、Wi-Fiスポットを探すネット中毒者、などなど飛んだ歩く死体のバリエーションに、笑わせてもらいました。
そう、今回のジャームッシュはかなりオンビートなのです。
『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』(2013)みたいな、ホラーの雰囲気をまとわせたアートごっこではないのだ。
ホラーのサブジャンルとしてのゾンビ映画と、本気で遊んでいるのです。
SF的な出来事が力づくで物語を展開させるくだりでは、『パンツの穴』(84)の武田鉄矢の宇宙人を、思い出してしまいました!
やっぱり早すぎた、天才・鈴木則文。
『デッド・ドント・ダイ』
2月18日
ゴッサムの悪漢・ジョーカーの後ろ盾はもう、お前にはねえ。
恋に破れて孤立無援の元恋人・ハーレイを、街のチンピラどもが襲撃する。
女友だちと闘い、娘みたいに大切な存在を見出すわれらがヒロイン。
マーゴット・ロビーが喋りとアクションで語りかけてくるのが、『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』なのでした。
往々にして退屈なくそリアリズムな殺し合いではなくって当然、マンガ。
ニュートン力学の法則は踏み越えない範囲内で、ヤル側もヤラれる側も映画館の観客を意識している。
だから時として力を合わせてこそ成り立つプロレス技が見事に決まるのです。
『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』
女子プロ的な、ジュニア的なアクロバットで!
いや……初代タイガー=佐山サトルの、四次元プロレス?
その場所に飛び散るのは、からだを流れてる血液じゃない。
ニセモノのただの、血のり。
でも、だからこその痛快無比なパフォーマンスを女たちは見事、披露出来たんだ……マジ、かっけー
2月17日
「ご覧の通りのメクラなもんで、右だ左だって言われてもさっぱりで。へへへ……」
だから、渡世の掟に生きてきた座頭をイデオロギーで行動させるなんて、話がちがうんじゃないですか?
『座頭市牢破り』の山本薩夫監督さんよお。
百姓どもの苦しみ、怒りを背負って、三國連太郎演じる外道なやくざの屋敷に乗り込む市。
そんな小林多喜二の小説みたいな座頭市なんて、メアキだからこそ、見たくないです。
飛んでいる蛾を爪楊枝を吹いてひと突き、三味線を曲弾きし、按摩仲間と片目に混ざって喧嘩する市。
そんなケッサクな場面があるのに……余計な思想が、重たいんだよなあ。
勝新太郎にイズムがあるとすればそれは、ショービズ厶なんだから。
退屈な芝居は絶対にしたくない。
意外性だけを狙ってる。
手持ち無沙汰になった時は……大体鼻毛抜いてますな。
『座頭市牢破り』
2月15日
またまた『警視−K』。
賀津警視(カツシン)の娘・正美を奥村利夫=勝新太郎の娘・奥村真粧美が演じてる。
第11話「その人は…ママ」(全13話)ではじめて賀津の元妻、正美のママ・玉美が中村玉緒だと、明らかになる。
そして……とんでもない公私混同に激しく感動してる、自分がいる!
『警視−K』
2月14日
カツシンだったら何でも、許されるのかよ……
『警視-K』第12話「ディス・イズ・ファミリー」、
賀津(勝新太郎)の子分・谷(谷崎弘一)は繁華街で愚連隊に襲われ、警察手帳を奪われてしまいます。
行方をくらまし一人、犯人を探しに新宿を徘徊する谷。
その行方を捜していた賀津は花園神社で、谷と再会する。
「スミマセン、親分」
谷を叱る賀津の背景、本殿の柱に貼られた千社札の一枚に、
「かつ新」の文字が……シャレがキツいぜ!!
2月14日
政治の季節は彼方に遠ざかった1981年。
淀川浄水場跡に高層ビルが林立し、バブルの「象徴」都庁舎が移設される前の副都心。
その街を舞台にカツシン演じる警視・賀津が凶悪犯罪を追う――
この伝説のTVドラマ『警視-K』に川谷拓三は、賀津に情報を流す尾張というチンピラ役で、登場します。
第9話「オワリの日」はその尾張の人生の、あまりに惨(むご)い結末を描いたエピソード。
尾張には両親に防空壕に置き去りにされた孤児という、壮絶な過去がある。
いつもの泣き笑いを浮かべている川谷拓三の尾張は、なじみの居酒屋の女将(松尾嘉代)に想い寄せているのです。
「悪い夢、見るんじゃねえぞ」
そう賀津に忠告されながら松尾嘉代に熱を上げ、まるで必然のように裏切られる。
決定的に傷つけられ損なわれ、街をさ迷った末、自動車に跳ねられる。
半ば自殺みたいな最期を、尾張は遂げるのです……。
いつもデッドエンドに向かって一直線に、突っ走っているように見える。
だから拓ボンを見ていると心がざわついて、不安がやみません。
2月8日
『ワンダーウーマンの秘密の歴史』……驚くべき、すばらしいノンフィクションでした。
著者ジル・ルポールによる関係資料の発掘・調査は、まさに鬼気迫る。
アメコミ史上初の女性ヒーローの生みの親ウィリアム・モールトン・マーストンの数奇な人生を彼女は、執拗なまでに追及していきます。
心理学者にして嘘発見装置の発明者。
その精度は陪審員たちの合議より真実だと主張したマーストンはまた、ハリウッドとも浅からぬ関係があった。
学生時代に書いたシナリオが、あのグリフィス監督で映画化されている。
『ジキル博士とハイド氏』の試写に招いた女性たちが、どの場面で性的昂奮を覚えるのか。
自慢の装置でそれを、計測したりもしているのです。
そんな男が創造したワンダーウーマンは、参政権の要求や産児制限など、女性の権利獲得運動の波に乗った。
ではマーストンは封権的価値観から女性たちを、解放したのか?
ワンダーウーマンがスーパーマン、バットマンに次ぐ人気者になると、変質的な暴力が子どもに及ぼす悪影響が、問題視されもした。
それではマーストンは、鎖に繋がれ手枷足枷された女性というシチュエーション緊縛状態に悦びを覚える、歪んだ性倒錯者だったのか?
著者ルポールはしかし結論を急がず、同時に検証の手も緩めません。
マーストンの「正妻」ホロウェイは正常でない家族のかたちを子どもたちに知られないよう、病的なまでに分類整理した写真や手紙などの遺品を手に入れる。
あらゆる性的なマイノリティーへの共感を綴ったマーストンの匿名投書を、見出しもする。
もしかしたら彼はあらゆるタブーをラディカルに、問い直そうとしていたのだろうか……。
弱い場所に追いやられている人たちの痛みを、想像するために。
広く深く読まれて欲しい一冊です。
2月6日
久々に家電量販店へ入ったら、100インチ級の8Kテレビが並んでいました。
8kカメラで撮影した高解像度の映像がロスなく、テレビモニタで視聴出来る、ってことですよね。
デモで流れていたネイチャー・ドキュメンタリーでサバンナを駆ける百獣の王を見て思ったのは、「『ライオン・キング』超実写版のシンバじゃん!」
ますます進化するCGのリアリティーと、人間の視覚を超えた高精度で記録がいま、交わったという。
いずれにせよどちらの技術もイコール、映画の良し悪しではないのはたしか。
『ライオン・キング』
2月5日
天才子役・ジュディ・ガーランドの最晩年を描いた伝記映画ではなく、それをレネー・ゼルウィガーという女優がどう解釈し、表現したか。
『ジュディ 虹の彼方に』をそんな視点から見ました。
『オズの魔法使い』のドロシーを演じるため、眠ることを許されない。
悪夢さえも見られない。
虚構の世界に生きろと強制された少女だった女性は最後、虹の彼方に何を、見ようとしたのでしょう。
そしてそれを演じた、レネー・ゼルウィガーは。
『ジュディ 虹の彼方に』
1月29日
遠いむかし、増村保造特集で見て以来の『やくざ絶唱』。
座頭市でも兵隊やくざも、悪名でもない。
ドル箱のキャラクターから外れ人間大のやくざ、『竜二』の金子正次みたいな生活感をまとったやくざを、天下のカツシンが演じている。
その姿を見ただけでもう、心が揺さぶられます。
ソープでお楽しみ中の仇に銃口を向け、それこそ弾倉が空になるまで弾を撃ち込む、カツシン。
銃声を聴いて仇の子分たちが駆けつける。
大スターはちんぴらどもに蜂の巣にされ、みじめな最期を遂げた……。
勝新太郎と本名・奥村利夫が犬死にする瞬間に、不意に立ち会ってしまったようで、ただ打ちのめされる。
そんなこちらの感傷とは関係なく、ふたたびシリーズを量産し始めるカツシン。
本当に、空前絶後です。
『やくざ絶唱』
1月28日
『星屑の町』を見てあらためて能年玲奈のアイドル性にもう、圧倒されました。
歌手に憧れるスナックの娘で、ナチュラルメイクで登場すれば、中学生みたいに透き通っている。
コーラスグループのボーカルとしてばっちりメイクでステージに立てばもう、圧倒的な色香を放つ。
くるくる衣装を替えながら登場する彼女を見るたびにこちらは、ただただ幸せに包まれて……。
中森明夫言うところの「瞬間少女=アイドル」はいま、能年玲奈しかいない!
『星屑の町』
1月26日
結婚式の前日、幼馴染の池部良を誘って『恋人』の久慈あさみは、銀座に繰り出します。
喫茶店で待ち合わせ、『哀愁』を見る。
アイススケートから天ぷらや、そしてダンスホールに流れて……
最終電車を逃した二人は地下構内で立ち尽くしています。
「時計の針が狂っちまったぼくらだけ、取り残されちまったんだ!」
恋心を打ち明ける久慈に、池部は叫ぶ。
時計の針を正そうとして。
霧が濃い夜道を足早に歩く久慈に、追いすがる池部。
『くちづけ』『遊び』『東京上空いらっしゃいませ』『孤独な天使たち』『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』『キャロル』『スプリング・フィーバー』……
限られた時間を生きる恋愛を描いた映画は、美しい!
『恋人』
1月19日
「BBCみたいに、いま何が起きてるかという情報を伝えるめてがまず、日本には必要だ」と宮台真司がかつて、言っていました。
ドキュメンタリーだけじゃなくて劇映画でも、現実を真正面から見ようとする作品がある。
「家族」をテーマにした映画が最高の評価を得た最近で言えば、万引きやらパラサイトの監督よりずっと確信的に、覚悟を持ってそのシビアな問題に向かっているのは、ケン・ローチです。
不妊、保険金、分断国家だったりに問題を、スライドしない。
絶望して、それでまだ、再出発を模索してる家族を描く。
それは勇気だって、マジで思います。
『家族を想うとき』
1月8日
袈裟斬りチョップ、BI砲、脳天唐竹割り、延髄切り、天龍革命、ヤングライオン、闘魂三銃士、四次元殺法、青春のエスペランサ、有刺鉄線電流爆破デスマッチ、極悪同盟、クラッシュギャルズ……昭和プロレス界のボキャブラリーはいちいち、単純明快かつ完ぺきなんだが(以上、吉田豪文体)
最高傑作はやっぱり、デンジャラスクイーンだな。
その北斗晶が「最近は「女アントニオ猪木」とも言われてるみたいですよ」と訊かれたインタビュー記事が昔々、紙のプロレスに載ってたんです。
対する北斗の答えがスゴくて、
「猪木ってひとの試合、見たことないんだよ。でも話を聞いてるとなんか、あたしに似てるなって思う」
……逆!逆だから!
1月5日
早稲田松竹、結婚映画二本立て②『小さな恋のメロディ』
芦田愛菜さんはもちろん、本田真凜さんもいいね!
そう友だちに告白したら、「ロリコンになったの?」
いやいや、魅力的な彼女たちがたまたま、ミッド・ティーンだっただけだよ……
と思っていたけれどトレイシー・ハイドさんも、いいね!
でも映画はやっぱり、ヒドいね!
『小さな恋のメロディ』
1月5日
早稲田松竹で結婚映画二本立て①『卒業』
昔々、名作ということだけで見た目でいま、あらためて再会したら……完全にカルト映画でした。
ダスティン・ホフマン演じるベンくん、直進してるつもりが蛇行、いや逆走までしてる。
同じ猛ダッシュ・タイプでも(フォレスト・)ガンプくんは、ちょっとユニークなだけ。愛嬌はたっぷり。
でもベンはズレてるってレベルじゃない。
完全に狂人です!
父親と会社を経営するMr.ロビンソンからMrs.ロビンソン(アン・バンクラフト)を寝とって、さらには最愛の娘・エレーン(キャサリン・ロス)までも。
それなのにベン、Mrs.と離婚したと告げるMr.に
「いや、奥さんとのことは、握手みたいなものだとお考えください」
すぐにエレーンの声が聴きたくて、でも電話するための小銭がない。
慌てたベンは下宿の主人に訴える。
「10ドル紙幣を10セント硬貨と、交換してくれ!」
エレーンの乗るバスを追い抜いてしまうくらい、いつでも全速力。
暴走を重ねた挙げ句いままさに、エレーンと「たぶんまともな男」が結婚を誓い合う教会に、ベンはたどり着いてしまった。
「エレーン!エレーン!!エレーーン!!!」
両拳でガラス窓を叩き叫ぶベン。
ヤメロ!!!!
しかしなんと、エレーンは応えて
「ベーーーンッッ!」
神をも怖れぬバカップルは、手に手をとって通りがかったバスに飛び乗るのだった……。
絶句。なるほど、サウンド・オブ・サイレンス!
このあと二人はボニー&クライドになるんだろうなあ。
それなのに?名匠マイク・ニコルズの演習は冴えまくっていて、だからまあ映画って、オモロッ
『卒業』
1月2日
内田裕也オフィス・石山夕佳さん曰く「裕也さんは宇宙に還った」。
だからなのでしょうか、47th NEW YEARS WORLD ROCK FESTIVALのステージに上がったロックンローラーたちはみなまったく湿っぽくなく、ベストなパフォーマンスを見せる事だけに集中していたように思えました。
だっていつも十年早すぎて、今日と明日より先は考えてなくて、リアルとフィクションの区別もない。
そんな、生きたり死んだりなんてちっぽけに感じられるくらいスペシャルな男だったんだから裕也さんは!
銀座、東京、日本、世界と宇宙、全部つながってるんだぜ!
近田春夫と活躍中、鮎川誠とシーナ&ロケッツwith LUCY、陣内孝則とTH eROCKers、白竜、PANTAと頭脳警察、THE JIVES、内田裕也&Truman Capote Rock’n’Roll Band…
「オマエらみんな、最高じゃねえか……飲めって!」
『内田裕也、スクリーン上のロックンロール』
1月2日
もう十年以上前のお正月。
スバル座のニコニコ大会で見たチャップリンの『サーカス』『モダン・タイムス』の会場がもう、凄かった。
猿と綱渡りするチャーリー、自動食事機のトラブルの犠牲になるチャーリー……
そのたびに満場のお客さんは、数えられないくらい見ているだろうにもう、湧きに湧く。箸が転がらなくても爆笑に次ぐ爆笑。絶頂時のツービートの漫才みたいに、笑い死にするひとが出てもおかしくないくらい。
そんな、いまはなきスバル座の記憶を反芻しながら、今年は新文芸座のニコニコ大会にやってきました。
しかし『街の灯』のボクシング場面は本当に、神がかっているとしか言いようがない。もう怖いくらい。
レフェリーの後ろのポジションを確保し、すきあらばオーバーハンド・パンチ。
相手のリーチの範囲内に入ったらすかさずクリンチ、とにかくクリンチ、コーナーポストにまでクリンチ。
挙げ句、ロープの反動を使ってフライング・ヘッドバット!
腹を抱えながら同時に、喜劇王快心の超絶技巧にもう、うっとりしてしまいました。一体何テイク、撮ったんだろう……。
ヒロインの盲目の花売りは、その美しさに無自覚なだけいっそう美しい。
その彼女の目に見られたわれらが放浪紳士の、あの表情。
『ライムライト』にならえば、喜劇でも悲劇でもない、あの表情。
ニコニコしながら最後は、天才の深淵を覗いてしまいました。
『街の灯』
12月31日
『スカイウォーカーの夜明け』……面白いじゃないか!
振り返れば
『スター・ウォーズ』公開前夜、興行の大失敗をおそれてルーカスは、ハワイに逃れていたそう。
そこで『未知との遭遇』の撮影を終え休暇にきていたスピルバーグと再会。
「子どもの頃のぼくらがワクワクしながら見てた連続活劇みたいな映画を、作らないかい?」
そんなスピルバーグのことばから始まったのが、世界を股にかけた冒険活劇インディ・ジョーンズ』シリーズだと言われています。
そして……切れ目なくスリルに次ぐサスペンス、面白すぎて「お子様映画」なんて揶揄されもしたあの手に汗握る感覚が『スター・ウォーズ』最終エピソードにも、たしかにあったのでした。
『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』
たとえば『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』冒頭、上海ギャングに追われたインディたちは、セスナで逃れる。しかし燃料漏れのトラブルが発生。
間一髪、一同が乗り換えた救命艇は、雪山を滑走して「無事」河川に着水。そしてインドへ……
とにかく圧巻の名シーン。
さて、『スカイウォーカーの夜明け』はと言えば
連続ハイパースペース・ジャンプから惑星パサナのアキアキの祭りへ。そのままストームトルーパーとのチェイスに雪崩こんで、二人乗りのスピーダー・バイク後部シートからのジャンピング・アタック!
すばらしい。
昔々遥か銀河系の彼方、未知の生態系、文明・風俗をめくるめく体験させてくれる。まさにスター・ツアーズ。
しかしやっぱり、ハン・ソロですよ。
『ブレードランナー』につづいてSF映画史のレジェンドの幕を下ろしたハリソン・フォードはますます、偉大な役者になってきたなあ。